林真理子著『8050』を読んで

一般書

林真理子さんのご著書を
あまり読んだことがなかったのですが、
引きこもりを題材にした、80歳の親が
50代の子供の世話をしなければならないという
社会問題『8050』というテーマに関心があり、
大変興味深く読みました。

林真理子さんと言えば、軽いエッセイを書く方という
とんでもない勝手な思い込みがありましたが、
かなり深刻な社会問題に鋭く切り込んだ重厚な作品も
書かれる方なのだと認識を新たにさせられました。

物語の設定もストーリ展開も身近で
身につまされるような内容だったと思います。
「引きこもり」になっている子どもさんのことを
最近耳にする機会がとても増えましたし、
そのことで苦しんでいるご家庭も
現在社会にはたくさん存在しているようです。

ではなぜ「引きこもる」子どもたちが
こんなに増えているのでしょう。
作品の中で一例として設定されていたことは
親が良かれと思って子どもの進路や
将来を決めてしまっているということがありました。
私は教育関係の仕事をしているので、やはり
そのことは大きな要因になるという確信があります。

子どもにとってたった一回きりの人生、
親に進路や将来の職業を決められてしまうことほど
生きる気力を奪われることはないでしょう。
親はどんなに良かれと思ったとしても、
子どもの意思を無視して進路を決めてしまわないように
十分注意する必要があります。
自発性自主性を育てることこそ幸せな子育てに通ずる。
このことを親は肝に銘じなければならないと思います。

作品でも子ども本人の意思を無視したわけじゃないと
親は振り返って繰り返し考えている場面が出てきますが、
「子どもの自発性を重んじる」という子育ての根幹を
見失わないことは、親がにとって
最も重要な課題なのではないかと思われます。

中学受験をさせてレベルの高い進学校に入学できたからと言って、
何事もうまくいくというわけではありません。
それだけで安心してしまって、
子どもの様子や変化を見落としてしまうと危険です。
どんなにいい環境そうに外側から見えていても、
実際は色々な問題が渦巻いているのが現実社会でしょう。
特に思春期の中学生たちの世界は複雑で陰湿なことも混在します。
自分の子どもの表情や雰囲気に注意をはらい、
何かトラブルに巻き込まれていないかどうか
常に気を配ることが大切です。
子どもがどんなに隠したがったとしても、
子どもの気持ちを察することができるように
親は注意深くあらねばなりません。
そして些細な変化を捉えて子どもに寄り添うことが必要です。
子ども同士のトラブルは我が子が一方的に被害者だとは限りません。
未熟な子どもたちは加害者にも被害者にもなりうるのだと考えて、
どちらにもなりきってしまうことがないように、
子どもの様子をさりげなく観察し寄り添うことが必要です。

そういう親の姿勢が理想ですが、
何事も理想通りに行かないこともありますよね。
子どもが中学生だった時、
親が共働きで忙しいこともあるでしょう。
子どもが巧妙に隠し続けて子どもの実態に
全く気が付かないことがあるかもしれません。
そんな時は小説の親のように後々になって
大きな後悔に苛まれることがあるでしょう。

小説では7年間も引きこもって
手がつけられないほど暴力的になってしまった息子のために
失った7年間を取り戻そうと決意する
父親の姿が描かれています。
長年に渡る引きこもりから息子を脱却させるためには
並々ならぬ決意と行動力が求められます。
家族を守り家族を維持することは
なんと過酷な大事業なのでしょうか。

こんがらがってしまった家族の心を紐解いていく。
息子を追い詰めた世の中の悪と真正面から向き合い戦い抜く。
そんな大事業に奔走し全力を尽くす父親の姿が痛々しくも健気です。

「命がけでないと家族は守りきれない。」
こんな便利になった世の中でも
そんなシンプルな真理が突きつけられている作品であると思います。

PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました