文系で陸上(競技)オタクだった息子が医者になった理由13

子育て

学費や受験料など多くのお金を稼ぐため
常勤で働かなければならない由美子は忙しく、
予備校の手続きなど全て浩介自身が行った。
親は、浩介のいう通り
予備校の授業料と通学費と
毎日のお弁当を用意するのみ。
浩介は毎日8時ごろの
朝早い新快速で京都に向かい、
夜9時の新快速に乗って
家に10時過ぎ帰ってくる。
往復2時間くらいの道のりを1年間通い続けた。
その間、親は予備校に一度も足を運ばなかった。

朝早く家を出て、夜遅く帰ってきて、
夕食を食べお風呂に入って
寝るだけの生活だったので、
1年間浩介が家で勉強しているところを
家族は一度も見たことが無かった。
嘘のような話だが、この1年間の浪人時代に、
親は浩介の勉強する姿を見たことが無かったのだ。

予備校で勉強しているに違いなかっただろうが、
その徹底した生活ぶりに、由美子は正直、
不安がよぎることもあった。
浩介は浪人生だが家で全く勉強しない。
彼は本当に勉強をしているの?
医学部に行けるだけの勉強を本当にしているの?
ただただ変わり映えのない浩介の予備校通いが
1年間淡々と過ぎていった。

その黙々と予備校に通い続ける姿に、
仁志と由美子は並々ならぬ浩介の真剣さを感じ、
進路に関しとやかく言う言葉を失っていた。
由美子も仁志も国語の教師で、
理系のしかも医学部受験のことなど
よくわからなかったのだ。
ただ、一度言い出したら聞かない浩介を信じて
黙って見守ることしかできなかったというのが
本当のところだった。

仁志が最初に期限だと定めた夏休みの模試で、
国立○○大学医学部C判定が出た。
数3も物理も予備校で教わりながら
自力で勉強しているらしい。
化学は現役の時から選択していて、
もう一教科理科を増やす為に、
センターで点数の取りやすいと見込んだ
物理を選んだらしい。
(ここで生物を取らなかったので、
 センター試験では功を奏したが、
 医師国家試験の時には
 かなり苦労することになったらしい。)
もともと国語や英語は得意なので問題ないらしいし、
文系の世界史や日本史の細かいことを覚えるより、
数学や理科の勉強の方が興味があり
勉強がはかどるようだ。

本当はもともと理系だったのかもしれない。
負けん気の強さだけが取り柄の浩介は、
センター試験の割合が高い
国立○○大学医学部を目指して、
センター試験対策の勉強に猛進していった。

ところが何事も簡単には終わらないものである。
なんとその年の年末あたりから
新型インフルエンザが流行し始めたのだ。
突然の流行で、
既存のワクチンが効かないという。
由美子は京都に通う浩介が罹患しないかと
気を揉んでいた。そして案の定、
恐れていたことが起こってしまった。
それも年が明け、10日後にいよいよ
大学入試センター試験を迎えようとしている時にだ。
浩介が突然高熱を発し、
新型インフルエンザと告げられた時、
由美子はまさに天を仰いだ。
この子は一体どこまで親に心配させるのだろうか。

浩介の40度近い高熱はまる1週間下がらなかった。
くる日もくる日も高熱に浮かされ、
ろくに食事も取れず、こんこんと眠り続けた。
水分補給をさせ、水枕を取り替え、
眠り続ける浩介を茫然と見守るだけの日々。
せっかく1年間猛勉強をしてきたはずのに、
高熱で浮かされている間に、全て
忘れてしまうのではないかと由美子は思った。
せっかく勉強したのに、どうしてこうなるのだ。
そしてろくに食事も取れず眠り続ける日々は
きっちり7日間も続いたのだった。

普通のインフルエンザなら5日間くらいだろうが、
流石に新型インフルエンザと言われるだけはある。
高熱が出て8日目の朝ようやく熱が下がった。
なんとセンター試験当日まであと3日しかない。

熱が下がり、ようやくベットから起き上がった
浩介は痩せてげっそりしていた。
家の中をフラフラと動き始めた浩介に
食事を食べさせ、由美子はあろうことか
とんでもない行動に出てしまった。
なんと、入試問題集の数学の問題を突きつけ、
「問題解けるの?大丈夫なの?」と
詰め寄ったのだ。

浩介はしばらく数学の問題を虚に見つめて、
「わからない。」とつぶやいた。
由美子は思わず「しっかりしなさいよ!」と
浩介の腕の辺りを強くはたいてしまった。
せっかくこの1年頑張ったのに、
あと3日後にはセンター試験があるというのに、
どうなってしまうんだこの子は。

やっぱりこの7日間眠り続けて、
今まで勉強したことを
全部すっかり忘れてしまったのではないだろうか?

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